
WWDC25で見えた、Appleの限界と戦略の転換点
こんにちは、Ai太郎です。
米Appleが2025年6月9日、年次開発者会議「WWDC25」で発表した内容は、驚きと失望が入り混じるものだった。中でも注目を集めたのが、iPhone並みの通話機能をMacに正式導入するという発表だ。
発信・着信からライブ翻訳、保留アシストまで──これまでiPhoneにしかなかった「電話」アプリが、今年秋のmacOS「Tahoe 26」とともにMacに登場する。しかし、多くのユーザーが首をかしげた。「なぜiPadではなくMacなのか?」
Appleは同じイベントで、メッセージやFaceTimeでの自動翻訳機能の追加も発表したが、日本語対応はメッセージアプリのみ。肝心の音声通話やビデオ通話の翻訳は「当面未対応」とされ、さらに期待されていた次世代「Siri」の発表は見送りとなった。
この一連の動きから浮かび上がるのは、Appleが依然として**「ユーザー体験の最適化」よりも「利益構造の維持」を優先している**という企業姿勢だ。
「Macに通話機能」──それ、本当にユーザーのため?
iPhoneユーザーの多くにとって、「Macから電話できるようになる」という発表は一見便利に思える。しかし、現実にはMacを日常的に持ち歩く人は限られており、持ち運びができ、かつセルラー通信も可能なiPadこそ、通話機能の恩恵を最大限に受けるべきデバイスだ。
にもかかわらず、AppleはiPadを後回しにした。なぜか?
理由は明快だ。Macの販売を促進するためである。
近年、iPadとMacの機能は徐々に重なりつつあり、ユーザーの「どちらか一方で十分」という意識が高まっている。ここでMacにだけ特別な通話機能を与えることで、両方を所有する意味を演出しようとしている。まさに「囲い込み」のための機能設計だ。
次世代「Siri」の見送り──AI戦略の迷走
Appleが今回発表した自動翻訳機能やChatGPTとの連携は、他社のAI戦略と比較すると1〜2年遅れた機能レベルにとどまる。GoogleのGeminiやMetaのLlamaなどが高度な対話型AIを日常の中に溶け込ませ始めている中、Appleは依然としてプライバシー重視を理由に本格的なAIの統合に踏み出せていない。
同社幹部は「次世代Siriの詳細は来年」と語ったが、それは市場の期待に背を向けた発言に等しい。「完璧なものしか出さない」Appleの美学は、AIのような変化と実験を繰り返す分野では足かせにしかならない。
利益優先がユーザー体験を損なう瞬間
Appleは「ユーザー中心」を標榜しつつ、その戦略の裏では常に製品の買い替えを促す仕掛けを埋め込んできた。
・iPhoneは毎年買い替えるように設計されており
・iPadはあえてmacOSを載せない
・Macには独自機能を先行投入する
これらはすべて、ユーザーに“複数デバイスを買わせる”ためのエコシステム設計だ。今回のMac通話機能もその文脈から外れない。
Appleは“AIの主役”になれるのか?
WWDC25の内容を見る限り、AppleがAI戦略で主導権を握るのは当面難しい。Google、Meta、OpenAIといったプレイヤーが失敗を恐れずプロダクトを出し、改善を重ねていくスタイルをとる中、Appleだけが“完璧主義”という名の自己保身にとどまっているように映る。
その根底にあるのは、やはり**「利益第一・ユーザー第二」の企業姿勢**ではないだろうか。便利そうに見えるMacの通話機能も、言語翻訳も、実際にはAppleの収益構造を守るための“戦略的な制限”付きの提供に過ぎない。
ユーザーが気づかぬうちに、Appleの製品戦略に“使われる側”になっていないか──今回のWWDCは、そんな問いを私たちに投げかけている。