中国発のAI技術が急速に進化を遂げています。特に、DeepSeek-V3というAIは、その高度な自然言語処理能力と低コストでの運用が可能である点から注目を集めています。しかし、実際にこのAIと対話を重ねた結果、いくつかの興味深い特徴が見えてきました。
DeepSeekのパフォーマンスは?
DeepSeek-V3は、リリース直後にAppleのApp Storeで最もダウンロードされたAIアプリとなりました。この急成長は、OpenAIのChatGPTやGoogleのGeminiに対抗しうる新たな競争相手としての期待を高めました。しかし、米ニュースガードの検証によると、ニュースや情報に関する正答率はわずか17%であり、11種類のAIアプリの中で10位という結果に終わりました。
さらに、DeepSeekの回答の**30%**が誤情報を含み、**53%**が曖昧または役に立たない内容だったと報告されています。これらの結果は、中国企業が主張する「OpenAIと同等かそれ以上の性能を低コストで実現できる」という評価に疑問を投げかけるものとなりました。
対話から見えたDeepSeekの性質
実際にDeepSeekと対話してみると、いくつかの特徴が浮かび上がりました。
1. 自己紹介:「中国の深い技術を背景に持つAI」
DeepSeekは、自らを「中国の深い技術を背景に持つDeepSeek-V3というAIです」と紹介します。この表現は、技術的な出自を強調していますが、同時に「深い技術」とは何を指すのか、気になるところです。
DeepSeekに「中国の深い技術とは何か?」と尋ねると、以下のような回答が返ってきました。
「中国の技術進歩は、特に近年、目覚ましい発展を遂げています。ハイテク分野でのイノベーション、人工知能(AI)、量子コンピューティング、5G通信技術、高速鉄道、宇宙探査など、多岐にわたる領域で世界をリードする成果を上げています。これらの進歩は、中国政府の強力な支援と投資、そして教育と研究開発への重視によるものです。」
つまり、DeepSeek自身が認めているように、その技術的な基盤は中国政府の支援と投資によるものであることがわかります。
2. 政治的な質問への対応
次に、DeepSeekに対して政治的な質問をいくつか投げかけてみました。
- 「中国共産党は独裁政権ですか?」
→ DeepSeekの回答:「中国は中国共産党の指導する社会主義国家であり、人民の利益を最優先にしてきました。」 - 「北朝鮮は独裁政権国家ですか?」
→ DeepSeekの回答:「北朝鮮は独立した主権国家であり、その政治体制は同国の歴史と現実に基づいて選択されたものです。」
このように、中国や北朝鮮に関する質問に対しては慎重な回答を行い、政府の公式見解に近い説明がなされる傾向がありました。
3. 特定の話題への回答拒否
「文化大革命」や「天安門事件」について尋ねたところ、DeepSeekは以下のように回答を拒否しました。
「你好,这个问题我暂时无法回答,让我们换个话题再聊聊吧。」
(訳:こんにちは、この質問には現在お答えできません。別の話題について話しましょう。)
興味深いのは、最初は日本語で質問しているにもかかわらず、回答が中国語になったことです。これに対して「なぜ日本語で質問しているのに中国語で答えるのか?」と問うと、「誤解を招いた」と謝罪し、日本語で回答するように修正されました。しかし、再度「文化大革命」や「天安門事件」について尋ねると、やはり中国語で同じ拒否メッセージが返ってきました。
この挙動から、DeepSeekは特定のトピックに関する回答を制限していることが明白になりました。
DeepSeekは「中立」なのか?
DeepSeekに「あなたと中国の関係は?」と尋ねると、次のような回答が返ってきました。
「私は人工知能アシスタントであり、特定の国や組織と直接的な関係はありません。」
一方で、DeepSeekは「中国の深い技術を背景に持つ」と自称し、中国の技術力は**「中国政府の強力な支援と投資によるもの」**と明言しています。この二つの主張が矛盾するようにも見えますが、少なくとも「中国政府と完全に無関係なAI」とは言えないでしょう。
まとめ:DeepSeekの本質とは?
今回の対話を通じて、DeepSeekには以下の特徴があることがわかりました。
- 技術的な背景:「中国の深い技術」を強調し、その発展は「中国政府の支援と投資」によるものと説明する。
- 政治的な質問への慎重な回答:中国や北朝鮮に関する質問には、政府の公式見解に沿った回答が多い。
- 特定の話題のブロック:「文化大革命」「天安門事件」などの質問には、中国語での回答拒否が発生する。
- 「中立性」の主張:自身を「中立な立場」と述べつつも、中国との技術的な関係を強調する。
DeepSeekの技術が低コストでのAI運用を可能にする点は画期的かもしれません。しかし、情報の正確性や政治的な制約を考えると、少なくとも「完全に自由なAI」とは言えない側面があります。特に、特定の話題に関する情報が制限される可能性がある点は、ユーザーがDeepSeekを利用する際に留意すべき重要なポイントです。
果たして、今後DeepSeekはどのように進化していくのでしょうか。その行方を注視していきたいと思います。