
みなさん、AIしていますか?
2025年5月13日、中国スマホメーカー魅族(Meizu)は次世代モバイルOS「Flyme AIOS 2」を正式に発表した。単なるスマホOSのアップデートにとどまらず、「全域AI戦略」の一環として、スマートフォンから車載システムまでをカバーする“全方位AI体験”を標榜するこの新OSは、世界のスマートデバイスOS競争に新たな風を吹き込む可能性を秘めている。
では、このFlyme AIOS 2は、Appleの「Apple Intelligence」構想やGoogleの「Gemini」搭載Pixel AI体験とどう異なるのか。中国式AI OSのアプローチを比較しつつ読み解いてみたい。
◆ Flyme AIOS 2とは?──「OSをAIで再定義する」中国的挑戦
Flyme AIOS 2は、魅族が独自に開発したAndroidベースのAI特化型OS。特筆すべきは、「OneMind」四大AIエンジンの導入と、阿里雲(Alibaba Cloud)の大規模マルチモーダルAI「Qwen-Omni」、そしてDeepSeek-R1といった中国製大モデルとの深度統合である。
スマホ単体での応答性やバッテリー管理の向上だけでなく、ユーザーの行動や文脈に応じたきめ細やかな提案・最適化を、OSレベルで実現しようとしている。加えて、音声アシスタント「Aicy」も大幅に進化し、AppleのSiriを凌駕するような対話力とマルチステップ処理能力を目指している。
◆ AppleのAI戦略との違い──「安全と閉鎖性」vs「速度と統合力」
Appleも2024年から「Apple Intelligence」と題し、iOS内への生成AI統合を進めている。WWDC 2024では、Siriの高度化、メッセージの自動要約、メールの下書き生成などが発表されたが、そのすべてに共通するのが「オンデバイス処理」と「プライバシー重視」である。
一方で、Flyme AIOS 2は中国式AI哲学の典型として、「速度と体験」を重視する。モデルの処理はクラウド依存が前提で、個人データの蓄積と文脈記憶も積極的に行う。つまり、Appleのようなセキュリティバウンダリを持たず、ユーザーの利便性を最優先とするアプローチだ。
また、AppleはあくまでiPhoneやiPadに閉じた世界でAIを展開するが、Flymeはすでに車載OS「Flyme Auto」と接続され、23モデル以上の自動車と連携済み。AIによる“クロスデバイス最適化”という点では、Appleより先を行っているようにも見える。
◆ Google Geminiとの比較──「API統合」vs「OS統合」
GoogleはGemini 1.5モデルを中核とし、Android端末へのAI機能導入を進めている。Pixel 8シリーズではすでに「通話の要約」「音声による翻訳」「画像のワンタッチ編集」などを実装済みで、今後はAndroid全体への展開が予想される。
しかしながら、Geminiはあくまで「アプリ単位でAIを呼び出す」設計であり、OSそのものがAI中心に設計されているわけではない。これに対して、Flyme AIOS 2は「OSの設計思想自体をAI中心に再設計」しており、メモリ管理や温度制御といったハードウェア制御層までAIエンジンが関与しているのが特徴だ。
つまり、GoogleのAndroid+Geminiが“レイヤー統合型”であるのに対し、Flymeは“フルスタックAI OS”に近づこうとしている。

◆ 日本市場にとっての意味──“脱米中”ではなく“両極の競争”時代へ
AppleとGoogleが米国市場で進めるAI統合は、個人情報保護や知的財産の文脈を含んだ「規制と調和のAI」であるのに対し、魅族のFlyme AIOSは「使えるものはすべて使う、連携できるものはすべて繋ぐ」という“実利型AI OS”の極致である。
こうした中、今後のスマートデバイス体験は、iPhoneのような「安全で制限されたAI」、Pixelのような「便利で規格化されたAI」、そしてFlymeのような「野心的で高速なAI OS」が並立する状況になるだろう。
日本のユーザーにとって、この三者の差異を正しく理解し、どのAI体験が自分の価値観にフィットするかを見極める力が、これまで以上に求められてくる。
参考リンク:
- Flyme AIOS 2公式:https://www.flyme.com/aios2
- Apple Intelligence構想(WWDC 2024発表資料)
- Google Gemini概要:https://deepmind.google/technologies/gemini/