
8月19日、シャオミ・ジャパンは「Xiaomi 電動シェーバー S101」の発売を発表した。ところが、当日になっても取扱店舗はゼロ。公式サイトも「到着通知」ボタンしか表示されず、消費者はどこでも手に入れられない。──それでも会社側は“発売”と胸を張る。この茶番劇にこそ、小米の創業者・雷軍が“猴王(猿の王)”と揶揄された理由がにじみ出ている。
「猴王」とは何か
“猴王”という呼び名は、中国のネットユーザーが雷軍につけた皮肉だ。直訳すれば「猿の王」だが、実際は「消費者を猿のように翻弄する王様」という意味を持つ。
彼の得意技は「饥饿营销(飢餓マーケティング)」──わざと供給量を絞り込み、「すぐ売り切れる人気商品」という幻想を演出すること。消費者はまるで猿回しの猿のように「次こそ買えるかもしれない」と踊らされ、何度もサイトを更新し、購入合戦に参加する。
雷軍はこの手口で“小米神話”を作り上げ、一時は「庶民のアップル」と呼ばれるまでになった。
なぜ中国では通用したのか
2010年代初頭の中国は、スマホ普及が一気に進む過渡期だった。
- 大手メーカーの端末は高価で、多くの人が手を出せない。
- 消費者は「性能が良くて安いスマホ」を切望していた。
- そこへ小米は“フラッグシップ級性能を半額で”と打ち出し、しかも「数量限定、即完売」と話題を独占した。
在庫不足は不便だが、当時の消費者心理は「みんなが欲しがっているなら間違いない」という群集心理が強かった。小米のフォーラムやSNSには「買えなかった」という叫びが溢れ、それ自体が宣伝になり、さらに次の販売に群がる。このループが“小米現象”を作ったのである。
日本では逆効果
ところが、この“猴王”のやり方は日本市場には全く馴染まない。
日本の消費者は「欲しいときに手に入る」ことを当然視する。家電量販店に並んでいなければ、そもそも検討対象にすら入らない。オンラインショップでも「在庫なし」「通知希望」と出れば、ただ「不便」「信用できない」と感じるだけだ。
中国のように「買えないからこそ価値がある」とは思わず、「買えない=商品力がない」と見なされる。
さらに、今回はシェーバーである。スマホのような“希少感”を演出する余地はなく、ただの日用品である。剃刀を「プレミア商品」「期貨商品」に仕立てようとする発想自体が、消費者心理の読み違いだ。
S101が示す“猴王意識”
「Xiaomi 電動シェーバー S101」は、剃刀そのものよりも、むしろ小米の企業体質を映す鏡になった。
- 発売を大々的に宣伝するが、実際には商品が存在しない。
- 消費者に“待たせること”を当然とし、それを話題化の手段とする。
- ブランド信頼を築くより、短期的な注目を優先する。
これこそ“猴王意識”である。雷軍は消費者を常に“猿”として扱い、猿回しの芸のように踊らせてきた。そのやり方を国外でも繰り返しているに過ぎない。
結論:日本での猿芝居
中国では“猴王”の猿芝居に喝采が送られた。しかし、日本ではその演出は通じない。
結果、S101は「ヒゲを剃る道具」になる前に、まず小米ブランドの信用を剃り落としてしまった。
日本の消費者が望むのは“幻の商品”ではない。店に並び、手に取り、その場で買える確かな日用品だ。
猿の王が日本に持ち込んだのは、新しいシェーバーではなく、古臭い猿芝居だった。