
2025年10月21日、Anker JapanはモバイルバッテリーやBluetoothスピーカーなど4製品の自主回収を発表した。
対象は「Anker PowerCore 10000」「Soundcore 3」「Soundcore Motion X600」「Anker PowerConf S500」。
いずれも販売期間は2022年末以降で、異物混入による電池セルの内部短絡(ショート)発生の可能性があるという。
国内でも発火事例が確認されたことから、Ankerは出荷を停止し、対象ユーザーに新品交換(または上位モデル交換)を案内している。
■「中国企業」ではなく「Anker」というブランド
Ankerは中国・深圳にルーツを持ちながらも、創業初期から一貫して「グローバルブランド」としての顔を作り上げてきた。
日本市場では特に「Anker Japan」の名義を前面に出し、広告・パッケージ・PRをすべて日本語ネイティブで整え、
製造国や中国企業であることをあえて強調しない戦略を徹底している。
その結果、一般ユーザーにとってAnkerは「中国メーカー」ではなく、「信頼できる輸入ブランド」として定着した。
Amazonレビューや家電量販店での棚配置も“国内ブランド扱い”に近い。
この「巧妙な匿名性」が、Ankerの最大のブランド資産といえるだろう。
■スペックでは競合に遅れを取る
筆者自身、Anker製品はあえて避けている。
理由は単純で、同価格帯で比較すると他社の方が高性能だからだ。
モバイルバッテリーでいえば、CIOやUGREEN、Baseusなどの方が出力・容量・ポート数いずれも上。
充電器では同じGaN採用でもCIO NovaPortシリーズの方が小型・低発熱だ。
スピーカー分野では、JBLやSonyと比べて音の厚み・音場の広がりが劣る。
それでもAnkerが売れるのは、「安心・安全・サポート」を理由に選ばれているからだ。
つまりAnkerはスペックで勝つ企業ではなく、「買っても失敗しない」ブランドとして成功してきた。
■発火という“ブランドの逆鱗”
そんなAnkerにとって、「発火」ほどブランドに痛手を与える言葉はない。
安全・信頼を旗印にしてきた企業が、自らその前提を崩したことになる。
ただし今回の対応自体は迅速で、公式サイト・SNS・メディア対応も統一されており、
“危機対応としては模範的”とも言える。
「原因を特定し、対象を限定し、透明に回収する」流れは、AppleやToyotaが行う危機マネジメントと同じ文法だ。
そのため短期的なブランド崩壊には至らないだろう。
しかし、「Anker=安心」の神話には小さくないヒビが入った。
■露呈した外注構造の脆さ
Ankerの電池セル製造は外部サプライヤーに委託されており、
今回の不具合もサプライヤーの製造工程での異物混入が原因とされる。
サプライヤーとの契約はすでに終了したというが、
構造的には中国国内での外注管理体制の甘さという根本課題が残る。
近年、AnkerはGaN充電器や高出力バッテリーといった「高エネルギー製品」へと事業領域を拡大しており、
品質管理の難度はますます高まっている。
もし管理体制を徹底できなければ、今回のような“偶発的リスク”は今後も再発しうる。
■「安心ブランド」を超えられるか
Ankerは、価格競争ではなく「信頼」と「デザイン」で勝負する戦略を取ってきた。
その点では日本市場で成功した数少ない中国系家電ブランドだ。
しかし信頼の根拠が揺らげば、その上に築かれたビジネスモデルもまた危うい。
消費者が今後求めるのは、「デザインのよい中国メーカー」ではなく、
**“透明で責任を果たす中国メーカー”**である。
Ankerがこの方向へ進化できるかどうかが、ブランドの未来を決める。
✍️結語
発火リスクで4製品を自主回収するAnkerのニュースは、単なるリコールではなく、
「ブランドとは何か」「信頼とは何に支えられるのか」を問い直す出来事である。
スペックを磨かずとも売れる時代は終わりつつある。
いま求められるのは、“安心”を演じるブランドではなく、
安心を構築できる体制を持つ企業だ。