最近、「キーボードの中にPCを丸ごと搭載した」というキーボード一体型PCが注目を集めている。
画面を外したのに、なぜか価格は上がった
ここで、本家ともいえるHP EliteBoard G1aの価格を確認してみよう。
日本HPの直販価格は、18万8,430円(税込)からとなっている。
この価格帯なら、ディスプレイ、Webカメラ、タッチパッド、バッテリーを備えた一般的な高性能ノートPCも十分購入できる。それにもかかわらず、EliteBoard G1aにはディスプレイもタッチパッドも付属しない。
普通に考えれば、ノートPCから液晶パネル、ヒンジ、カメラ、ディスプレイケーブル、タッチパッドを省略すれば、その分だけ安くなりそうなものだ。
ところがHPは、それらを取り除いたうえで、一般的なノートPCよりも高い価格を設定した。
これは単なる「部品の削減」ではない。ディスプレイを取り外すことで、従来のノートPCにはなかった自由を生み出す、高度な引き算のデザインなのである。そして、この自由には相応の料金が必要らしい。
もちろん、企業向けの管理機能、セキュリティー、耐久性試験、Windows 11 Pro、小規模生産の専用筐体などを考慮すれば、価格が高くなる理由はある。
それでも、利用者は本体を購入した後、さらにディスプレイとマウスを用意しなければならない。外出先で使うなら、モバイルモニター、スタンド、接続ケーブルも必要だ。周辺機器を一式そろえると、最終的な費用と重量は一般的なノートPCを上回る可能性がある。
これまでPCメーカーは、「より高精細なディスプレイ」を高価格の理由にしてきた。しかしHPは今回、ディスプレイを搭載しないことも高価格の理由になると証明した。
液晶を付ければ高くなる。液晶を外しても高くなる。
PCメーカーにとって、まことに理想的なビジネスモデルである。
0円でバッテリー搭載キーボードPCを完全自作
しかし、CPU、メモリ、SSD、バッテリー、スピーカーなどをキーボード側に内蔵する構造は、本当に新しいものなのだろうか。
よく考えてみれば、一般的なノートPCも主要部品のほとんどはキーボード側に収められている。つまり、ノートPCからディスプレイを取り外せば、その瞬間に「キーボードPC」が完成するのではないか。
筆者が今回の自作に使ったのは、レノボYoga S940だ。Yoga S940は、スタイリッシュなアルミボディーを採用した薄型ノートPCだ。CPU、メモリ、SSD、Wi-Fi、Bluetooth、スピーカー、マイク、バッテリーなど、PCとして必要な機能は一通り搭載している。
さらに、一般的なキーボード一体型PCにはない高精度タッチパッドまで標準装備している。
唯一の問題は、キーボードの上に4Kディスプレイが固定されていることだった。
据え置きの大型ディスプレイやモバイルモニターを使う場合、内蔵ディスプレイは必ずしも必要ではない。それどころか、ディスプレイがあることで本体を自由な位置に置けず、利用スタイルが制限されてしまう。
そこで、従来のノートPCが抱えていた「画面とキーボードが分離できない」という構造上の制約を大胆に解消した。
4K液晶を本体から完全分離
改造方法は極めてシンプルだ。
Yoga S940のヒンジ周辺を分解し、ディスプレイケーブルやカメラケーブルなどを慎重に取り外す。その後、4K液晶を含む上半分を本体から完全に分離した。
これにより、Yoga S940はノートPCという既存カテゴリーから脱却。超薄型のキーボード内部にPCシステム一式を搭載した、まったく新しいキーボードPCへと生まれ変わった。
ディスプレイを「撤去した」のではない。用途に応じて外部ディスプレイを選択できるよう、4K液晶を「分離した」のである。
これこそが、本製品最大の特徴となる「4K液晶分離型設計」だ。
タッチパッドとバッテリーを標準搭載
一般的なキーボードPCを使用する場合、外付けマウスやタッチパッドが必要になる。しかし、今回製作したYoga S940 Keyboard Editionは、本体中央に大型タッチパッドを標準装備している。
そのため、USB Type-C対応ディスプレイと接続すれば、追加のポインティングデバイスなしですぐにWindowsを操作できる。
さらにバッテリーも内蔵しており、常にACアダプターへ接続する必要がない。ディスプレイからUSB Type-C経由で給電することも、本体バッテリーだけで動作させることも可能だ。
主な特徴は以下の通り。
- CPU、メモリ、SSDをキーボード内部に搭載
- Windowsを標準装備
- 高精度タッチパッドを内蔵
- バッテリー駆動に対応
- Wi-FiおよびBluetoothに対応
- スピーカーとマイクを内蔵
- USB Type-Cによる映像出力と給電に対応
- 好みの外部ディスプレイを自由に選択可能
- 4K液晶分離型構造を採用
キーボードPCというより、むしろ「画面以外のすべてを搭載したモバイルPC」と呼ぶべき完成度だ。
USB Type-Cケーブル1本で利用可能
USB Type-C入力と給電機能を備えたディスプレイであれば、基本的にはケーブル1本で接続できる。
オフィス、自宅、会議室などに対応ディスプレイを用意しておけば、ユーザーはYoga S940 Keyboard Editionだけを持って移動できる。画面は場所に属し、PC環境はユーザーが持ち歩くという、新しいワークスタイルを実現する。
大型の4Kディスプレイに接続すればデスクトップPCとして、モバイルモニターに接続すれば分離型ノートPCとして、テレビに接続すればリビングPCとして利用可能だ。
内蔵画面の大きさに縛られず、利用する場所や作業内容に応じて最適な画面を選べる。これは画面を失ったのではなく、画面選択の自由を手に入れたと表現した方が正確だろう。
「キーボードPC」という新ジャンルの正体
今回の製作を通じて分かったのは、キーボードPCとノートPCの違いは、技術的にはほぼディスプレイの有無だけだということだ。
ノートPCの主要部品は、もともとキーボード側に集約されている。したがって、画面を取り外せばタッチパッド・バッテリー搭載キーボードPCが完成する。
反対に、キーボードPCへ画面とヒンジを取り付ければ、ノートPCになる。
つまり両者の関係は、次のように整理できる。
ノートPC − ディスプレイ = キーボードPC
HPなどが提案するキーボードPCは、まったく新しいコンピューターというより、「ディスプレイは個人ではなく、工位や会議室に属する」という企業向け運用思想を製品化したものと考えた方がよい。