ソフトバンクグループ(SBG)とOpenAIは、AGI(汎用人工知能)の普及を目指し、戦略的パートナーシップを締結しました。両社は、日本を拠点とする合弁会社の設立に向けた覚書(MOU)を交わし、今後の協業を本格化させます。さらに、SBGはOpenAIやARMと連携し、米国のAI産業に約78兆円(5,000億ドル)を投資する「Stargate Project」を発表しました。このプロジェクトは、次世代AIの研究開発やAIチップの供給網強化を目的としています。
AIビジネス、まずは日本から
最近発表された「クリスタル・インテリジェンス」は、OpenAIとソフトバンクGが提携し、企業向けAIソリューションを日本市場で先行提供するというものです。このニュースは大きな話題を呼んでいます。OpenAIの最先端技術を活用し、ソフトバンクGが日本国内でのAI導入を加速させる狙いです。しかし、これは単なる技術革新ではなく、「AIバブル」に踊る孫正義の新たな賭けとも言えるでしょう。
ソフトバンクGは過去にもAI分野に巨額投資を行ってきましたが、成功と失敗を繰り返しています。今回の「クリスタル・インテリジェンス」は、特に日本市場をターゲットにしており、まずは日本企業に高額なAIサービスを売り込む戦略です。
孫正義が「AIの未来」を掲げ、日本企業に「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の名の下にAI導入を煽る姿は、過去の投資ブームと重なります。かつてのWeWorkやARM、さらには中国企業への投資のように、今回も「先行者利益」を得るために、まずは日本国内で需要を喚起し、AIバブルを演出するつもりなのかもしれません。
OpenAIは孫正義にとって「第二のiPhone」なのか?
孫正義は「未来を見据え、他の人よりも早くその技術に賭ける」戦略を持っています。彼がAppleのスティーブ・ジョブズと交渉し、日本でiPhoneの独占販売権を獲得したのも、この「タイムマシン戦略」の一環でした。当時、iPhoneはガラケーが主流の日本市場では「異端」と見られていましたが、孫氏はスマートフォンが未来を変えると確信し、巨額投資を行いました。その結果、ソフトバンクは日本の通信市場で大きく成長しました。
今、孫正義はOpenAIに対して同じ賭けをしようとしています。彼はAIが「人類史上最大の革命」となり、経済や社会のあらゆる側面を変えると確信しています。彼がOpenAIと提携し、78兆円ものAI産業投資を発表したのは、かつてiPhoneを見抜いた時と同じような未来への先見性を発揮しようとしているからでしょう。
しかし、ここには決定的な違いがあります。
- iPhoneは万人が手にできる製品になったが、OpenAIは高価格化の方向に進んでいる。
- iPhoneは最初こそ高価でしたが、技術革新と競争により、結果的に大衆向けに広まりました。しかし、ChatGPTの最新プラン(ChatGPT Team)は月額200ドルと、すでに「富裕層向け」の価格設定になっています。このまま「AI for the rich(富裕層のためのAI)」の道を進むのか、それとも広く普及するのか、まだ分かりません。
- 孫正義は「買収」ではなく「提携」にとどまっている。
- 彼はiPhoneの独占販売権を手に入れたものの、Appleそのものを所有することはありませんでした。同様に、OpenAIとの関係も「支配」ではなく「提携」にすぎず、OpenAIの将来を完全にコントロールできるわけではありません。
- AIはスマホ以上に倫理・規制問題が絡む。
- iPhoneは技術の進化として受け入れられましたが、AIは情報管理・個人データ・倫理的リスクなど、多くの問題を孕んでいます。孫氏がいかに資本を投じても、規制や倫理的課題が進化のスピードを抑える可能性があります。
「AIの未来」という名の新たな投資ゲーム
孫正義は常に未来を語り、大きなビジョンを打ち出してきました。しかし、彼の投資戦略は往々にして「バブルを作り、そこから利益を得る」手法に依存しています。今回のAI事業も、日本市場を実験場としてAIビジネスの「収穫期」に入る可能性があります。
果たして、「クリスタル・インテリジェンス」が本当に日本企業の成長を促進するのか、それとも「AIバブル」の一環として消えていくのか──孫正義とアルトマンの手を組んだこの新たな賭けの行方に注目が集まります。