2025年11月、中国最大の通信事業者 中国移動(China Mobile) は《5Gスマートフォン製品ホワイトペーパー(2026年版)》を正式に発表した。要約すると以下のような内容だ。
【1】eSIMは「端末一体型」+「機体ロック」が義務化へ
白書によると、中国移動は今後のすべての eSIM 搭載スマートフォンに対して、以下の要件を課す方針を明記した。
- 各端末に内蔵できる eSIMチップは最大1個。
- eSIMチップは 端末内部に封入され、取り外し不可。
- eSIMには 「機体(端末)とのロック機能(机卡锁定能力)」 を必須とする。
→ 出荷時に紐づけられた端末以外(同一モデルであっても他端末を含む)にeSIMを装着すると、
その eSIM は通信サービスを停止。
→ 端末がeSIMの交換を検知した場合、自動的にそのカードを無効化。
つまり、eSIMは「仮想SIM」でありながら、実際には端末と一体化した“物理的な所有制限”が課せられる仕組みとなる。
【2】位置情報によるダウンロード制限を義務化
白書では、端末側に「位置情報に基づくeSIM制限機能」を備えることも義務付けている。
| 端末の位置 | 許可されるダウンロード | 禁止されるダウンロード |
|---|---|---|
| 中国本土内 | 国内事業者のみ | 海外および香港・マカオ・台湾事業者の eSIM |
| 中国本土外 | 海外事業者のみ | 中国国内の eSIM |
つまり、中国本土で海外eSIMを追加する行為 は技術的にも制度的にも禁止され、逆に 海外で中国キャリアのeSIMを追加すること もできなくなる。
すでに Apple が国行 iPhone に導入している「地域封印」仕様と一致する内容だ。
【3】端末の登録・報備義務
- すべての eSIM 端末は 中国移動への登録(報備) が必要。
- IMEI・EID とユーザー情報を紐付けて登録。
- 登録されていない端末では、中国移動の eSIM サービスを利用できない。
これにより、実名制・端末トレーサビリティがより明確に制度化される。
表向きは、eSIM とスマートフォン製品に関する技術ガイドである。
しかし、その内容は 外付け eUICC 型サービス(5ber / XESIM / esim.me 等)を完全に否定する規定 となっていた。
このホワイトペーパーにより、5ber がサービス停止・アプリ停止に追い込まれた理由が「事業失敗ではなく、制度による“絶命”」だったことがはっきりした。
■ ホワイトペーパーの核心ポイント(まとめ)
中国移動が義務化した内容:
| 項目 | 内容 | 5ber への影響 |
|---|---|---|
| eSIM は端末に 内蔵されたもののみ有効 | 外付け eUICC(5ber 等)を全面否定 | ❌ 5ber の存在意義が消滅 |
| 端末(IMEI)と eSIM(EID)の紐付け必須 | eSIM を他端末に移動すると無効 | ❌ 差し替え自由が消える |
| 1つの端末に内蔵できる eUICC は 1つのみ | 複数 eSIM プロファイル追加不可 | ❌ 5ber の複数 eSIM 運用が破綻 |
| 国内では海外 eSIM プロファイルのダウンロード禁止 | Airalo 等の海外 eSIM も制限対象に | ❌ グローバル eSIM 終了 |
| 端末の IMEI / EID を事前に登録しなければサービス不可 | 匿名・自由利用が不可能に | ❌ 公式に認められない構造 |
特に決定打となった文言:
「eSIM は端末内蔵のみ。取り外し可能な eUICC は不可。」
つまり、
外付け eUICC(=5berの仕組み)は規格上、初めから“存在してはならないもの”とされた。
■ 5ber とは何だったのか?
5ber は、
「物理SIMカードに eSIM プロファイルを書き込める」
という 外付け eUICC を提供するサービスだった。
ユーザーはスマートフォンに 5ber カードを挿し、アプリで複数の eSIM プロファイルを書き換えて利用することができた。
つまり、eSIM 時代に失われた
「SIM カードを抜き差しする自由」
をユーザーに取り戻す存在だった。
■ なぜ中国移動は 5ber を排除したのか?
理由は単純である。
外付け eUICC はユーザーに“自由に逃げられる手段”を与えるから。
eSIM の本当の目的は、
✅ 端末と番号を固定化し
❌ ユーザーに自由を与えないこと
その中で、5ber は唯一、
ユーザーの手に「SIM の主導権」を戻してしまった。
だから 制度面で抹殺された。
■ 最も皮肉な事実
中国が eSIM を正式に開放する前は、5ber のようなサービスが「すき間」で生き残れた。
しかし、正式開放された後こそ、5ber は規格と制度によって完全に息の根を止められた。